百人一首の第40番は、作者 平兼盛(たいらのかねもり)が詠んだ、隠しきれない恋心を描いた歌として知られています。
百人一首『40番』の和歌とは

原文
しのぶれど 色に出でにけり 我が恋は 物や思ふと 人の問ふまで
読み方・決まり字
しのぶれど いろに いでにけり わがこいは ものやおもふと ひとのとふまで
「しの」(二字決まり)
現代語訳・意味
隠していたつもりの恋心が、表情に出てしまっていたのです。私の恋は「何か物思いをしているのですか?」と人に尋ねられるほどに。

背景
百人一首『40番』の和歌は、平安時代中期の歌人・平兼盛が詠んだものです。
960年、村上天皇が開催した「天徳内裏歌合」で披露されました。この歌合では「忍ぶ恋」をテーマに壬生忠見と優劣を競い、どちらも優れた歌と評価されました。しかし、天皇が平兼盛の歌を口ずさんだことで勝敗が決まったと言われています。
当時の貴族社会では、恋心を直接伝えることが難しく、和歌を通じて気持ちを表現する文化が根付いていました。こうした背景を知ることで、この歌に込められた切ない恋心がより深く理解できるでしょう。
語句解説
しのぶれど | 「しのぶ」は「耐える、我慢する」という意味。人に気づかれないように恋心を隠している様子を表しています。「れど」は逆接の助詞で「〜けれども」と同じ意味です。 |
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色に出でにけり | 「色」は顔色や表情を意味し、「出で」は「表れる」の意味です。「けり」は、気づきを表す助動詞で、この場合「恋心が表情に出てしまっていたんだなぁ」と後から気づいたことを表します。 |
我が恋は | 「私の恋は」という意味。自分の恋心が顔に出ていることを意識しています。 |
物や思ふ | 「物思ふ」は「恋に悩む」という意味です。「や」は疑問を表す係助詞で、「物や思ふ」は「恋の悩みを抱えているの?」という他人の問いかけを指しています。 |
人の問ふまで | 「人」は周囲の他人を指し、「問ふ」は「尋ねる」という意味です。「まで」は程度を示し、ここでは「他人が尋ねるほどに」という意味で、恋心が周りに気づかれてしまう様子を強調しています。 |
作者|平兼盛

作者名 | 平兼盛(たいらのかねもり) |
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本名 | 同上 |
生没年 | 生年不詳 ~ 991年(正暦2年) |
家柄 | 光孝天皇の玄孫で、平氏を名乗る。 |
役職 | 従五位上・駿河守(するがのかみ)に就任。平安時代の貴族として活躍したが、位階はそれほど高くなかった。 |
業績 | 歌人として三十六歌仙の一人に数えられ、優れた和歌を残す。また、960年に開催された「天徳内裏歌合(てんとくだいりうたあわせ)」で壬生忠見との名勝負が有名。 |
歌の特徴 | 繊細で感情豊かな恋の歌を得意とし、特に恋心の複雑さや隠しきれない感情を表現するのが巧みです。また、表現に倒置法を使い、気づきや驚きを強調することが多い。 |
出典|拾遺和歌集
出典 | 拾遺和歌集(しゅういわかしゅう) |
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成立時期 | 1005年頃(平安時代中期) |
編纂者 | 花山院(かざんいん) |
位置づけ | 八代集の3番目の勅撰和歌集 |
収録歌数 | 1,351首 |
歌の特徴 | 優雅でしめやかな歌風が特徴で、贈答歌が減少し、旋頭歌や長歌が採用されています。古今集の伝統を重んじつつも、伝統の枠を超えた表現が多く見られます。 |
収録巻 | 「恋一」622番 |
語呂合わせ
しのぶれど いろに いでにけり わがこいは ものやおもふと ひとのとふまで
「しの ふととふ(しの とうふ)」
百人一首『40番』の和歌の豆知識

村上天皇が勝敗を決めた名勝負
この場で、平兼盛と壬生忠見が「忍ぶ恋」を題材にした歌を披露しました。両者の歌はどちらも評価が高く、審査員も優劣を決めかねていました。しかし、最終的に村上天皇が平兼盛の歌を口ずさんだことで、彼の勝利が決まりました。
この出来事は平安時代の歌合の中でも特に有名なエピソードとして語り継がれています。天皇の一言が勝敗を左右するほど、和歌は当時の文化において重要な役割を果たしていたのです。この名勝負は、百人一首の中でも特に印象的な逸話の一つとして、多くの人々に親しまれています。
平兼盛の恋歌
自分の恋を隠しているつもりでも、無意識に表情に出てしまい、周囲に気づかれてしまう様子を詠んでいます。この繊細な心情の描写が、多くの人の共感を呼びました。特に、恋を打ち明けられないもどかしさや、ふとした瞬間に気持ちが表に出てしまう感覚は、現代の恋愛にも通じるものがあります。
また、この歌は倒置法を使うことで、驚きや気づきの感情を強調しています。平安時代の和歌は、ただ美しい言葉を並べるだけでなく、工夫を凝らして感情を伝えるものだったのです。
平兼盛の肖像画が展示されている美術館
この美術館は、日本や東洋の美術品を数多く所蔵しており、歴史や文化を感じることができる場所です。肖像画は、平兼盛の姿を伝える貴重な資料であり、平安時代の歌人の雰囲気を今に伝えています。MOA美術館は熱海駅からバスでアクセスでき、広大な敷地と美しい景観も魅力の一つです。
平兼盛の和歌が好きな人や、百人一首に興味がある人にとって、実際に彼の肖像画を目にすることで、当時の文化をより身近に感じることができるでしょう。
まとめ|百人一首『40番』のポイント
- 原文:しのぶれど 色に出でにけり 我が恋は 物や思ふと 人の問ふまで
- 読み方:しのぶれど いろに いでにけり わがこいは ものやおもふと ひとのとふまで
- 決まり字:しの(二字決まり)
- 現代語訳:隠していた恋心が、表情に出てしまっていた。私の恋は「何か物思いをしているのですか?」と人に尋ねられるほどに
- 背景:960年の「天徳内裏歌合」で壬生忠見と競い、村上天皇が平兼盛の歌を口ずさんだことで勝敗が決まった
- 語句解説①:しのぶれど‐「しのぶ」は耐える・我慢する意味で、「れど」は逆接の助詞
- 語句解説②:色に出でにけり‐「色」は表情、「出で」は表れる、「けり」は気づきを表す助動詞
- 語句解説③:我が恋は‐「私の恋は」の意味で、自分の恋心が顔に出ていることを意識している
- 語句解説④:物や思ふ‐「物思ふ」は恋に悩むという意味で、「や」は疑問を表す係助詞
- 語句解説⑤:人の問ふまで‐「人」は周囲の他人、「問ふ」は尋ねる、「まで」は程度を示し、恋心が周囲に気づかれる様子を強調
- 作者:平兼盛(たいらのかねもり)
- 作者の業績:三十六歌仙の一人で、恋の歌を得意とし、「天徳内裏歌合」で壬生忠見と競った名勝負が有名
- 出典:拾遺和歌集
- 出典の収録巻:恋一・622番
- 語呂合わせ:しの ふととふ(しの とうふ)
- 豆知識①:村上天皇が勝敗を決めた名勝負‐審査が難航したが、天皇が平兼盛の歌を口ずさみ、勝敗が決まった
- 豆知識②:平兼盛の恋歌‐恋心を隠そうとしても無意識に表情に出てしまう繊細な心情を詠んだ歌
- 豆知識③:平兼盛の肖像画が展示されている美術館‐MOA美術館(神奈川県箱根)で展示され、和歌の歴史を感じることができる