百人一首『48番』風をいたみ 岩うつ波の おのれのみ くだけて物を 思ふころかな(源重之)

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百人一首の第48番は、平安時代の歌人・源重之(みなもとのしげゆき)が詠んだ、報われない恋の切なさを自然にたとえた歌として知られています。

百人一首『48番』の和歌とは

原文

風をいたみ 岩うつ波の おのれのみ くだけて物を 思ふころかな

読み方・決まり字

かぜをいたみ いわうつなみの おのれのみ くだけてものを おもふころかな

「かぜを」(三字決まり)

現代語訳・意味

風が激しく吹きつけて、岩に打ち寄せる波が自分だけ砕け散ってしまうように、相手は平気なのに私だけが思い悩んでいる、この頃の自分の心情です。

背景

百人一首『48番』の和歌は、平安時代中期の歌人・源重之によって詠まれました。この歌は、激しい風によって岩に打ちつけられ砕け散る波の様子を、自分の報われない恋心に重ね合わせたものです。

当時の和歌では、自然の情景に心情を託して表現することがよくありました。特にこの歌では、岩に当たる波が何度も砕け散る姿が、相手に受け入れてもらえない自分の切ない心情と重ねられています。

また、源重之は官位には恵まれず、地方官として各地を巡った歌人でした。そのため、彼の歌には風景描写が豊かで、情感あふれる表現が多く見られます。この背景を知ることで、歌の情景がより鮮明に浮かび上がるでしょう。

語句解説

風をいたみ「いたみ」は「激しい」を意味する形容詞「いたし」の語幹に由来しています。「風が激しいので」という原因や理由を表す表現です。
岩うつ波の「の」は比喩表現で、波が岩を打ち付ける様子を示しています。ここまでが「序詞」(じょことば)で、波が無視され砕ける様子を女性の冷たい心にたとえています。
おのれのみ「のみ」は限定を意味する助詞で、「自分だけ」という意味です。ここでは、自分だけが思い悩んでいる状況を強調しています。
砕けて「くだけ」は自動詞「くだく」の連用形で、「壊れて粉々になる」ことを表しています。ここでは、相手に振り向いてもらえず、無視されて心が砕け散る様子を表現しています。
物を思ふころかな「物を思ふ」は「物事を思い悩む」意味です。「ころかな」は、「今この時期は~だなあ」と、悩ましい心境にある時を表す表現です。

作者|源重之

作者名源重之(みなもとのしげゆき)
本名同上
生没年生年不詳~1000年頃
家柄清和天皇の曾孫(ひまご)で、平安時代中期の貴族・歌人。三十六歌仙の一人に数えられる名門の家系。
役職官位は従五位下。地方官として筑前権守(筑前国〈現在の福岡県〉の長官)などを歴任。
業績冷泉天皇が東宮(とうぐう、皇太子)だった時代に『重之百首』という百首の和歌を献上
歌の特徴風景や自然を題材にして情感を表現する歌を多く詠んだ。特に、激しい風景描写を通じて繊細な心情を表現するのが特徴。

出典|詞花和歌集

出典詞花和歌集(しかわかしゅう)
成立時期1151年(仁平元年)
編纂者藤原顕輔(ふじわらのあきすけ)
位置づけ八代集の6番目の勅撰和歌集
収録歌数409首
歌の特徴保守と革新の調和を目指し、前代の曾禰好忠や和泉式部の歌や、当代の大江匡房や崇徳院の歌が多く収録されています。藤原顕輔が編集し、好忠の「戯れ歌」を重視しています。
収録巻「恋上」211首

語呂合わせ

かぜをいたみ いわうつなみの おのれのみ くだけてものを おもふころかな

かぜを くだけ(風をうけてくだける)

百人一首『48番』の和歌の豆知識

百人一首『48番』の品詞分解

百人一首の48番の品詞分解を行うことで、歌の意味や文法構造が理解しやすくなります。

風をいたみ「風」(名詞) + 「を」(格助詞) + 「いたみ」(形容詞「いたし」の語幹+接続助詞「み」) → 風が激しいので
岩うつ波の「岩」(名詞) + 「うつ」(動詞「うつ」の連体形) + 「波」(名詞) + 「の」(格助詞) → 岩に打ちつける波のように
おのれのみ「おのれ」(代名詞「自分」) + 「のみ」(副助詞「~だけ」) → 自分だけ
くだけて「くだけ」(動詞「くだく」の連用形) + 「て」(接続助詞) → 砕けて
物を思ふ「物」(名詞) + 「を」(格助詞) + 「思ふ」(動詞「思ふ」の連体形) → 物思いにふける
ころかな「ころ」(名詞「頃」) + 「かな」(詠嘆の終助詞) → ~だなあ

「風をいたみ岩打つ波のおのれのみ」の意味は?

「風をいたみ 岩うつ波の おのれのみ」は、風が激しく吹くため、岩に打ちつけられる波が自分だけ砕け散ると解釈できます。

ここで、風は外的な力を、岩は動かない相手の心を象徴しています。一方で、打ち砕ける波は、報われない恋に悩む自分自身を表しています。つまり、恋の相手には何の変化もなく、むしろ心を打ち砕かれるのは自分だけだという心情が、この一文に凝縮されているのです。恋が成就せず、もがき苦しむ様子を、風と波という自然の力に重ねて表現しています。

現存する最古の百首和歌「重之百首」

源重之は、冷泉天皇が皇太子だった頃に『重之百首』と呼ばれる百首の和歌を献上しました。

『重之百首』は、私的な百首和歌の最古の例とされ、以後の百首和歌文化の先駆けとなった貴重な作品です。この百首和歌を通して、源重之の歌が広まり、当時の歌人たちに多大な影響を与えたことがうかがえます。

まとめ|百人一首『48番』のポイント

この記事のおさらい
  • 百人一首『48番』は、源重之の恋の和歌である
  • 原文は「風をいたみ 岩うつ波の おのれのみ くだけて物を 思ふころかな」
  • 読み方は「かぜをいたみ いわうつなみの おのれのみ くだけてものを おもふころかな」
  • 「かぜを」という三字決まりで始まる歌である
  • 現代語訳は「相手は平気なのに、私だけが思い悩んでいる」という意味
  • 風が強く吹き、岩に打ちつける波が砕け散る様子を表現している
  • 「風をいたみ」は「風が激しいので」という意味を持つ
  • 「岩うつ波の」は、波が無視されて砕ける様子を冷たい相手にたとえている
  • 「おのれのみ」は「自分だけ」を意味し、孤独な恋心を強調している
  • 源重之は平安中期の歌人で、清和天皇の曾孫にあたる
  • 源重之の「重之百首」は現存する最古の百首和歌といわれる
  • 歌は『詞花和歌集』の恋の部「恋上」に収録されている
  • 「詞花和歌集」は平安末期の1151年に成立した勅撰和歌集である
  • 編纂者は藤原顕輔で、静かな情景と感情表現が特徴とされる
  • 歌には「かぜを くだけ(風をうけてくだける)」という覚え方がある
  • 48番の歌は、届かぬ恋心の切なさを強調する内容である
  • 自然の風景と恋の心情を重ねる表現が、この歌の特徴である
  • 平安時代には貴族の間で恋愛が文化的テーマとして扱われていた
  • 波や岩など、自然を恋の比喩として用いる表現は平安時代らしい特徴
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