百人一首の第49番は、作者 大中臣能宣(おおなかとみのよしのぶ)が詠んだ、恋心を夜の篝火に例えた歌として知られています。
百人一首『49番』の和歌とは

原文
みかきもり 衛士のたく火の 夜はもえて 昼は消えつつ 物をこそ思へ
読み方・決まり字
みかきもり えじのたくひの よるはもえて ひるはきえつつ ものをこそおもへ
「みかき」(三字決まり)
現代語訳・意味
宮中の御門を守る衛士(えじ)の焚くかがり火が、夜には燃え盛り、昼には消え入るように、私の恋心も夜には熱く燃え、昼には消えるように静まりながらも、恋に思い悩み続けています。

背景
百人一首49番の歌は、平安時代の歌人・大中臣能宣(おおなかとみのよしのぶ)によって詠まれました。この歌は『詞花集(しかわかしゅう)』に収録されており、恋の切なさや心の移ろいを宮中の警護をする衛士(えじ)の篝火(かがりび)に例えて表現しています。
当時の宮中では、夜間になると篝火が焚かれ、衛士たちが門を守っていました。夜に燃え盛る篝火と、昼間には消えてしまうその姿が、恋する人の心情に重ねられています。
平安時代は恋の感情を自然の風景や日常の情景に例える文化があり、この歌もその特徴がよく表れています。夜と昼のコントラストを通して、恋の情熱と物思いの切なさが見事に描かれているのです。
語句解説
みかきもり | 宮中の門を警備する人々を指します。この和歌では、警護を担当する衛士(えじ)を意味し、夜間に門を守る姿が描かれています。 |
---|---|
衛士(えじ) | 平安時代に、各地から選ばれて交替で宮中の警護を行っていた兵士を指します。ここでは、夜にかがり火を焚いて門を守る役割を担っています。 |
たく火(たくひ) | 夜の警備のために焚かれたかがり火のことです。この火が、恋の情熱を象徴するものとして使われています。 |
夜は燃え(よるはもえ) | かがり火が夜に燃え上がる様子を表現し、恋心が夜に強く燃え上がる情熱をたとえています。 |
昼は消えつつ(ひるはきえつつ) | 昼になると消えゆく火を表し、恋の情熱が冷めるように昼間は物思いにふける心の静まりを表現しています。 |
物をこそ思へ(ものをこそおもへ) | 「物思いにふける」という意味で、恋に悩む様子を表しています。「こそ」は強調の意味を持つ言葉で、恋の悩みが深いことを強調しています。 |
作者|大中臣能宣

作者名 | 大中臣能宣(おおなかとみのよしのぶ) |
---|---|
本名 | 同上 |
生没年 | 921年(延喜21年)~991年(正暦2年) |
家柄 | 中臣鎌足を祖先に持つ中臣氏の一族で、神祇官(神職)を代々務める名門。歌人を多く輩出した家系。 |
役職 | 伊勢神宮の祭主を務める神職であり、和歌所の「梨壺の五人」にも選ばれた一人。 |
業績 | 62代村上天皇の命により、和歌所で万葉集の訓点付けや『後撰和歌集』の編纂に携わる。また、三十六歌仙の一人としても知られる。 |
歌の特徴 | 夜と昼、情熱と冷静など、対比を用いて情景を繊細に描くのが特徴。恋心や自然の美しさを鮮やかに表現し、和歌の美的表現に優れた作風を持つ。 |
出典|詞花和歌集
出典 | 詞花和歌集(しかわかしゅう) |
---|---|
成立時期 | 1151年(仁平元年) |
編纂者 | 藤原顕輔(ふじわらのあきすけ) |
位置づけ | 八代集の6番目の勅撰和歌集 |
収録歌数 | 409首 |
歌の特徴 | 四季を中心に、祝賀や別れ、恋愛、そして雑多なテーマを扱っています。このような多様なテーマの選定は、当時の人々の感情や生活の様相を反映しており、和歌の持つ表現力の豊かさを示している。 |
収録巻 | 「恋上」225番 |
語呂合わせ
みかきもり えじのたくひの よるはもえて ひるはきえつつ ものをこそおもへ
「みかき ひる(昼に耳かき)」
百人一首『49番』の和歌の豆知識

百人一首の49番の序詞は?
序詞とは、和歌の中でその後に続く言葉や内容を導くために使われる、前置きのような役割を持つ言葉です。
この歌では、「みかきもり 衛士のたく火の」が夜の篝火(かがりび)を指し、続く恋心の燃え上がる様子を説明する前置きとなっています。つまり、篝火が夜には燃え、昼には消える様子を恋の感情に重ね合わせるための導入部分です。
「みかきもり」とは?現代の仕事でいうと
平安時代、宮中の門を守るために各地から集められた衛士(えじ)が夜に門を見張っていました。彼らが焚く篝火(かがりび)は、夜の暗闇の中で重要な光源でした。
この仕事は、厳しい夜の寒さと戦いながら宮中を守るもので、日常の安全を支える存在でした。
「ひるはきえつつ」とはどういう意味ですか?
この表現は、宮中を守る衛士(えじ)が焚く篝火(かがりび)が夜には燃え盛り、昼にはその炎が弱まり、やがて消えてしまう様子を表しています。そして、この篝火の様子が、作者自身の恋心に重ねられています。夜は情熱的に燃え上がる恋心が、昼になると抑えきれない物思いにふけり、心が静かに沈んでいくような状態を意味しています。
また、「つつ」という助詞は動作が繰り返されることや継続することを表しており、昼と夜の心情の変化が繰り返される切なさを強調しています。この言葉には、恋の苦しみや胸の内の静かな葛藤が込められているのです。
大中臣能宣の家系に隠された歌人の伝統
この家系は、神職だけでなく、優れた歌人を多く輩出していることで知られています。彼の孫には、百人一首『61番』を詠んだ伊勢大輔(いせのたいふ)もいます。こうした家族の伝統の中で育まれた能宣の和歌は、自然や恋愛の情景を巧みに表現する技量が際立っています。
まとめ|百人一首『49番』のポイント
- 原文:みかきもり 衛士のたく火の 夜はもえて 昼は消えつつ 物をこそ思へ
- 読み方:みかきもり えじのたくひの よるはもえて ひるはきえつつ ものをこそおもへ
- 決まり字:みかき(三字決まり)
- 現代語訳:宮中の門を守る衛士が焚く篝火が、夜には燃え、昼には消えるように、私の恋心も夜には熱く燃え、昼には静まりながらも思い悩んでいる
- 背景:平安時代の歌人・大中臣能宣が詠んだ歌で、『詞花集』に収録されており、恋の切なさを宮中の篝火に例えている
- 語句解説①:みかきもり‐宮中の門を守る衛士を指す
- 語句解説②:衛士(えじ)‐各地から選ばれ、交替で宮中の警護を行う兵士
- 語句解説③:たく火(たくひ)‐夜の警備のために焚かれる篝火
- 語句解説④:夜は燃え(よるはもえ)‐篝火が夜に燃え上がる様子を恋心に重ねている
- 語句解説⑤:昼は消えつつ(ひるはきえつつ)‐昼に篝火が消えるように、恋の情熱が静まることを表現
- 語句解説⑥:物をこそ思へ(ものをこそおもへ)‐「こそ」により、恋の苦しみが強調されている
- 作者:大中臣能宣(おおなかとみのよしのぶ)
- 作者の業績:村上天皇の命により『後撰和歌集』の編纂に関わり、「梨壺の五人」の一人として活躍
- 出典:詞花和歌集(しかわかしゅう)
- 出典の収録巻:恋上225番
- 語呂合わせ:みかき ひる(昼に耳かき)
- 豆知識①:百人一首49番の序詞‐「みかきもり 衛士のたく火の」は篝火を指し、恋心の導入部分となっている
- 豆知識②:「みかきもり」は現代の仕事でいうと‐現在でいう警備員にあたり、宮中の安全を守る役割を担っていた
- 豆知識③:「ひるはきえつつ」の意味‐篝火が昼には消えるように、恋心も昼には静まりながらも悩み続けることを示す
- 豆知識④:大中臣能宣の家系‐伊勢神宮の神官を代々務める家柄で、孫の伊勢大輔も百人一首に名を残している