百人一首『50番』君がため 惜しからざりし 命さへ 長くもがなと 思ひけるかな(藤原義孝)

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百人一首の第50番は、作者 藤原義孝(ふじわらのよしたか)が詠んだ、愛する人への深い想いと切ない別れを表現した歌として知られています。

この記事では、百人一首『50番』の原文、読み方、決まり字、現代語訳と意味について説明します。
さらに、作者、出典や語呂合わせについても詳しく解説していきます。

百人一首『50番』の和歌とは

原文

君がため 惜しからざりし 命さへ 長くもがなと 思ひけるかな

読み方・決まり字

きみがため おしからざりし いのちさえ ながくもがなと おもいけるかな

「きみがためお」(六字決まり)

現代語訳・意味

あなたに逢うためならば、たとえ命を失うことになっても惜しくはないと思っていましたが、いざあなたと逢瀬を遂げた今では、もっと長生きして、あなたと共にいたいと思うようになりました。

語句解説

君がため「君」は恋人を指します。「が」は連体修飾格の格助詞で、「君がため」で「あなたのために」「あなたと逢うために」という意味になります。
惜しからざりし「惜しから」は「惜しい・もったいない」という意味の形容詞。「ざり」は打消の助動詞「ず」の連用形で、「し」は過去を表す助動詞「き」の連体形です。全体で「惜しいとは思わなかった」という意味になります。
命さへ「命」は文字通り「自分の命」を意味します。「さへ」は「〜までも」の意味を持つ添加の副助詞で、ここでは「命までも」と訳されます。
長くもがな「長く」は「長い時間」「長生きすること」を指します。「もがな」は、願望を表す終助詞で、「〜であればいいなあ」という意味になります。全体で「長くあってほしい」「長く生きていたい」となります。
思ひけるかな「思ひける」は「思うようになった」という意味です。「ける」は詠嘆の助動詞「けり」の連体形で、今まで気づかなかったことに驚きや感動を感じている様子を表します。全体で「こんなふうに思うようになったなあ」という心情を表現しています。

作者|藤原義孝

作者名藤原義孝(ふじわらのよしたか)
本名同上
生没年954年(天暦8年)〜 974年(天延2年)
家柄藤原北家の出身。父は摂政・太政大臣を務めた藤原伊尹(ふじわらのこれただ)。
役職正五位下・右少将。若くしてこの位に就き、貴族としても有望視されていました。
業績和歌の才能が高く評価され、『後拾遺和歌集』などに歌が収録されています。「中古三十六歌仙」の一人として後世に名を残しています。
歌の特徴恋愛をテーマにした情熱的で純粋な歌が多い。率直な感情表現と美しい言葉選びが特徴的です。後朝(きぬぎぬ)と呼ばれる、逢瀬の後の別れをテーマにした歌も多く詠んでいます。

出典|後拾遺和歌集

出典後拾遺和歌集(ごしゅういわかしゅう)
成立時期1086年(応徳3年)
編纂者藤原通俊(ふじわらのみちとし)が中心
位置づけ八代集の4番目の勅撰和歌集
収録歌数1,218首
歌の特徴伝統的な和歌を受け継ぎつつ新風を示し、女性歌人の作品が多く、宮廷生活を具体的に反映した詞書が特徴です。
収録巻「恋の二」669番

語呂合わせ

きみがため おしからざりし いのちさえ がくと おいけるかな

きみがためお ななもも(きみがためおー!ななちゃん、ももちゃん)

百人一首『50番』の和歌の豆知識

百人一首『50番』の表現技法は?

百人一首『50番』の「君がため惜しからざりし命さへ 長くもがなと思ひけるかな」には、いくつかの表現技法が使われています。

まず、「君がため」は愛する人のためにという強い思いを表す枕詞で、歌の情感を深めています。「惜しからざりし命さへ」では、命さえ惜しまないという誇張表現(誇張法)を用いて、相手への無償の愛を強調しています。また、「長くもがな」の「もがな」は願望を表す終助詞で、願いや切望の感情を示します。このように、枕詞や誇張法、願望を表す表現を組み合わせることで、愛する人への献身的な思いと、共に過ごす時間が長く続くことを願う切実な気持ちを詠み上げています。

「長くもがな」は願望の象徴

「長くもがな」という言葉は、相手と過ごす時間がもっと長く続いてほしいという切実な願いを示します。

この「もがな」という表現は、平安時代の和歌では、何かを願うときに使われる言葉でした。作者は病の床にあったため、愛する人と過ごす時間が限られていることを自覚していたとも考えられます。こうした背景を知ると、和歌に込められた願いの切実さがより強く感じられるでしょう。

作者・藤原義孝の悲しいエピソード

百人一首『50番』を詠んだ藤原義孝は、非常に短命な人生を送りました。

彼は24歳で亡くなり、若くしてこの世を去ることになりました。この和歌は、彼が亡くなる直前に詠んだとされており、彼の未練や愛する人への思いが強く表現されています。この背景を知ることで、和歌の持つ切ない感情がより深く理解できるでしょう。

まとめ|百人一首『50番』のポイント

この記事のおさらい
  • 百人一首『50番』は藤原義孝が詠んだ和歌である
  • 原文は「君がため 惜しからざりし 命さへ 長くもがなと 思ひけるかな」
  • 読み方は「きみがため おしからざりし いのちさえ ながくもがなと おもいけるかな」
  • 六字決まりで「きみがためお」と覚える
  • 和歌のテーマは、愛する人への献身的な想いと長生きしたい願いである
  • 「君がため」は、愛する人のためを意味する枕詞である
  • 「惜しからざりし」は命を惜しまない気持ちを強調している
  • 「長くもがな」は、愛する人と長く一緒にいたいと願う表現である
  • 現代語訳では、愛する人に逢うためなら命を惜しまないと解釈される
  • 藤原義孝は24歳で亡くなり、短命な人生を送った
  • この和歌は藤原義孝の最期の思いを込めたものとされる
  • 出典は『後拾遺和歌集』で、1086年に成立した
  • 『後拾遺和歌集』は八代集の4番目の勅撰和歌集である
  • 「君がため」の覚え方には「きみがためお ななもも」がある
  • 和歌の背景を知ると、献身的な恋心と切ない別れがより理解できる
  • この和歌は、後朝(きぬぎぬ)の別れの切なさを詠んだとされている
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