百人一首『81番』ほととぎす 鳴きつる方を ながむれば ただ有明の 月ぞ残れる(後徳大寺左大臣)

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百人一首の第81番は、作者・後徳大寺左大臣(ごとくだいじのさだいじん)が詠んだ、夏の風物詩「ホトトギス」と「有明の月」を情緒豊かに描いた歌として知られています。

百人一首『81番』の和歌とは

原文

ほととぎす 鳴きつる方を ながむれば ただ有明の 月ぞ残れる

読み方・決まり字

ととぎす なきつるかたを ながむれば ただありあけの つきぞのこれる

」(一字決まり)

現代語訳・意味

ホトトギスが鳴いた方を眺めてみると、その姿はもう見えず、空にはただ有明の月だけが淡く残っているのだった。

背景

百人一首『81番』の和歌は、平安時代末期の文化や貴族の美意識が反映された作品です。この時代、自然や季節の移ろいを詠む和歌が盛んで、「ホトトギス」は夏の訪れを告げる鳥として貴族たちに愛されていました。特にその初音(はつね)を聞くことは風流とされ、夜通し待ち続けることもあったといいます。

この歌は「暁聞郭公(あかつきにほととぎすをきく)」という題材で詠まれ、作者の後徳大寺左大臣(藤原実定)は、ホトトギスの鳴き声を聞いた瞬間の情景と、その後に広がる有明の月の静寂を巧みに表現しました。一瞬の出来事に宿る儚さや美しさが詠まれた、典雅な和歌です。

語句解説

ほととぎすカッコウ科の鳥で、夏の訪れを告げる代表的な鳥。和歌では、季節や時間の移ろいを象徴することが多い。
鳴きつる方「鳴きつる」は助動詞「つ」の連体形で、動作の完了を表す。「ホトトギスが鳴いた方向」のことを指す。
ながむれば動詞「ながむ」の已然形+接続助詞「ば」で、「眺めてみると」の意味。
ただ副詞として使われ、「他には何もなく、ただ〜だけ」という限定の意味を持つ。「有明の月だけが残っている」という限定を強調している。
有明の月夜明けになっても空に残って輝いている月のこと。有明の月に物悲しさや余韻を感じ取り、よく和歌に詠んだ。
強意の係助詞。「〜ぞ…る」と係り結びを作り、後半の「残れる」を強調している。
残れる助動詞「り」の連体形。「〜ている」「〜ていた」という存続の意味を表す。「ただ有明の月が残っていた」という状態を示している。

作者|後徳大寺左大臣

作者名後徳大寺左大臣(ごとくだいじのさだいじん)
本名藤原実定(ふじわらのさねさだ)
生没年1139年(保延5年)~1192年(建久3年)
家柄藤原北家の出身で、祖父は徳大寺左大臣藤原実能(ふじわらのさねよし)
役職右大臣、後に左大臣にまで昇進。摂政九条兼実(くじょうかねざね)の補佐を務めた。
業績政治家として高い地位に就き、文化人としても和歌や漢詩、管弦に優れていた。
歌の特徴自然の情景や季節の移ろいを繊細に表現する歌が多く、特に優雅で情感あふれる歌風が特徴。

出典|千載和歌集

出典千載和歌集(せんざいわかしゅう)
成立時期1188年(文治4年)
編纂者藤原俊成(ふじわらのしゅんぜい)
位置づけ八代集の7番目の勅撰和歌集
収録歌数1,288首
歌の特徴平安末期の幽玄で温雅な歌風を特徴とし、新奇を抑えた調和の美を追求。釈教や神祇に特化した巻があり、雑歌には長歌や旋頭歌も収録。
収録巻「夏」161番

語呂合わせ

ととぎす なきつるかたを ながむれば だありあの つきぞのこれる

たけのこ(掘った たけのこ)

百人一首『81番』の和歌の豆知識

ホトトギスはなぜ特別視された?

平安時代、貴族たちは「ホトトギス」の初音(はつね)を聞くことを特別な風流と考えていました。

この鳥は初夏に日本へ渡ってくるため、「夏を告げる鳥」として和歌に頻繁に詠まれています。特に初めて鳴く声は「初音(はつね)」と呼ばれ、その声を聞くために一晩中待ち続けることもあったほどです。

さらに、ホトトギスは素早く飛び回るため、鳴き声は聞こえても姿を見るのは難しいとされていました。このため、儚くも美しい存在として、多くの歌人が和歌にその姿を重ねたのです。

有明の月が持つ独特な美しさ

「有明の月」とは、夜が明けてもまだ空に残る月のことを指します。

平安時代の人々にとって、有明の月はただ美しいだけでなく、どこか物悲しさや儚さを感じさせる存在でした。夜が明けるとともに消えゆく月は、時間の流れや人生の無常を象徴するものとして、数多くの和歌に詠まれています。

この歌でも、ホトトギスの声が一瞬の出来事であるのに対し、有明の月は静かに残り続ける姿が対比的に描かれ、その情景に独特の余韻が生まれています。

夜明けを待つ平安貴族の優雅な習慣

平安時代の貴族たちは、自然の美しさを心から愛し、その一瞬を逃さないためにさまざまな工夫をしました。

特に「ホトトギス」の初音を聞くために、山間部で夜を明かし、耳を澄ませることが風流とされていました。夜明け前の静寂の中で待ち続け、ホトトギスの声が聞こえた瞬間の感動は格別だったといいます。

この歌は、そんな貴族たちの優雅で繊細な感性を映し出し、夜明けのわずかな時間に見えた「有明の月」の美しさとともに、時の儚さを表現しています。

まとめ|百人一首『81番』のポイント

この記事のおさらい
  • 原文:「ほととぎす 鳴きつる方を ながむれば ただ有明の 月ぞ残れる」
  • 読み方:「ほととぎす なきつるかたを ながむれば ただありあけの つきぞのこれる」
  • 決まり字:「ほ」(一字決まり)
  • 現代語訳:ホトトギスが鳴いた方を眺めると、その姿はなく、ただ有明の月だけが残っていた
  • 背景:平安時代末期の貴族文化や自然への感性が反映された和歌
  • 語句解説①:ほととぎす…夏を象徴する鳥で、初音を聞くことが風流とされた
  • 語句解説②:鳴きつる方…「ホトトギスが鳴いた方向」を意味する
  • 語句解説③:ながむれば…「眺めてみると」の意味
  • 語句解説④:ただ…限定を強調する副詞
  • 語句解説⑤:有明の月…夜明けに残る月で、儚さや物悲しさを象徴する
  • 語句解説⑥:ぞ…強意の係助詞で意味を強調する役割
  • 語句解説⑦:残れる…助動詞「り」の連体形で存続を意味する
  • 作者:後徳大寺左大臣(藤原実定)
  • 作者の業績:右大臣や左大臣を歴任し、和歌や管弦に優れた文化人だった
  • 出典:『千載和歌集』
  • 出典の収録巻:「夏」161番
  • 語呂合わせ:「ほ たけのこ(掘った たけのこ)」
  • 豆知識①:ホトトギスは特別視された理由…初音を聞くことが風流とされ、夜通し待つこともあった
  • 豆知識②:有明の月の象徴性…時間の流れや儚さ、物悲しさを表現する存在だった
  • 豆知識③:平安貴族の風流な習慣…ホトトギスの声を聞くために徹夜することがあった
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