百人一首の第10番は、作者 蝉丸(せみまる)が詠んだ、出会いと別れを象徴する歌として知られています。
百人一首『10番』の和歌とは
原文
これやこの 行くも帰るも 別れては 知るも知らぬも 逢坂の関
読み方・決まり字
これやこの ゆくもかえるも わかれては しるもしらぬも おうさかのせき
「これ」(二字決まり)
現代語訳・意味
これがあの、都から旅立つ人も、都へ帰る人も、知り合いも知らない人も、ここで別れてはまた会うという有名な逢坂の関なのですね。
背景
百人一首『10番』は、平安時代の歌人・蝉丸(せみまる)による和歌です。この歌は、京都と滋賀の境にある「逢坂の関(おうさかのせき)」を舞台に詠まれました。逢坂の関は、都から東国へ向かう重要な交通の要所であり、多くの人々が行き交い、出会いと別れを繰り返す場所として知られています。
蝉丸は盲目の琵琶法師であったとも、皇族であったとも言われる謎の多い人物です。この歌は「人との出会いは別れの始まりであり、別れがあるからこそ次の出会いがある」という仏教的な無常観を含んでいます。当時の人々にとって、逢坂の関は単なる関所ではなく、人生の縮図を象徴する場所でもあったのです。
語句解説
これやこの | 「これがあの有名な~」という意味。詠嘆(感動)を表す表現で、「逢坂の関」にかかっています。 |
---|---|
行くも帰るも | 旅立つ人も、帰ってくる人も、という意味。ここでは都(京都)を基準に、都から出て行く人と帰ってくる人を指しています。 |
別れては | 「別れてはまた会う」という反復を表しています。「ては」は、繰り返しを表す言葉です。 |
知るも知らぬも | 知っている人も、知らない人も、という意味です。ここでも対になる表現を用いて、誰もが逢坂の関で出会い、別れるということを表しています。 |
逢坂の関 | 京都府と滋賀県の境にあった関所のこと。「逢ふ」という言葉と「逢坂」が掛けられ、出会いと別れを象徴する場所として使われています。 |
作者|蝉丸
作者名 | 蝉丸(せみまる) |
---|---|
本名 | 不明 |
生没年 | 不明 |
家柄 | 宇多天皇または醍醐天皇の皇子とされることもありますが、詳細は不明です。 |
役職 | 一説には、宇多天皇の第八皇子である敦実親王に仕えた雑色(ぞうしき、雑務を行う役人)だったとされています。 |
業績 | 琵琶の名手として伝説があります。盲目であったにもかかわらず、その腕前は非常に優れていたと言われています。『今昔物語集』や『平家物語』に登場し、琵琶を演奏していたという逸話が残されています。 |
歌の特徴 | 蝉丸の歌は、人生の無常感や出会いと別れをテーマにした深い歌が特徴です。 |
出典|後撰和歌集
出典 | 後撰和歌集(ごせんわかしゅう) |
---|---|
成立時期 | 951年(天暦5年)頃 |
編纂者 | 梨壺の五人(なしつぼのごにん) |
位置づけ | 八代集の2番目の勅撰和歌集 |
収録歌数 | 1,425首 |
歌の特徴 | 日常的な贈答歌や人事を詠んだ歌が多く、権力者と女性とのやり取りが多く収録されています。公的な歌より私的な歌を重視し、柔らかく女性的な歌風が特徴です。 |
収録巻 | 「雑一」1089番 |
語呂合わせ
これやこの ゆくもかえるも わかれては しるもしらぬも おうさかのせき
「これ しる(これ、お汁粉)」
百人一首『10番』の和歌の豆知識
逢坂の関とは?
もともとは人の出入りや物資のチェックをする役割を担っていましたが、平安時代にはその機能がなくなっていました。それにもかかわらず、この場所は和歌や物語に繰り返し登場し、出会いや別れの象徴として親しまれました。蝉丸の歌でも、逢坂の関が出会いと別れを繰り返す場所として描かれています。歴史上の役割が変わっても、文学の中ではその象徴的な意味が強く残った例と言えるでしょう。
仏教的な「会者定離」の教えとは?
この言葉は「出会いがあれば必ず別れがある」という意味です。逢坂の関で出会った人々がまた別れていくように、人生もまた出会いと別れを繰り返すものだと歌っています。この無常感が、単なる旅の風景を超えた深い意味を持たせ、古くから人々に親しまれています。
蝉丸と琵琶の名曲伝説
特に有名なのは、源博雅という人物が蝉丸から秘曲「流泉」「啄木」を学んだという話です。源博雅は蝉丸の名演奏を聴くために何度も逢坂の関を訪れ、ついには蝉丸からその秘曲を伝授されたと伝えられています。このような話が後に能や謡曲として発展し、蝉丸の名声が広まったのです。
まとめ|百人一首『10番』のポイント
- 百人一首『10番』の歌は、蝉丸によって詠まれた。
- 歌の原文は「これやこの 行くも帰るも 別れては 知るも知らぬも 逢坂の関」
- 読み方は「これやこの ゆくもかえるも わかれては しるもしらぬも おうさかのせき」
- この歌の決まり字は「これ」(二字決まり)。
- 現代語訳は、都から旅立つ人も帰る人も、知り合いも知らない人も逢坂の関で別れ、また会うという意味。
- 「これやこの」は「これがあの有名な~」という感嘆表現。
- 逢坂の関は京都府と滋賀県の境にあった関所。
- 逢坂の関は「逢ふ」と掛詞になり、出会いと別れを象徴している。
- 蝉丸は、盲目の琵琶法師であったという伝説がある。
- 『後撰和歌集』の「雑一」1089番に収録されている。
- 『後撰和歌集』は平安時代中期に編纂された、勅撰和歌集である
- 歌のテーマは「出会いと別れ」、仏教の「会者定離」を反映している。
- この歌は、対句「行くも帰るも」「知るも知らぬも」を巧みに使っている。
- 逢坂の関は、文学作品で頻繁に登場する象徴的な場所となっている。
- 蝉丸の琵琶の名曲伝説があり、源博雅がその秘曲を学んだという逸話がある。