百人一首『44番』あふことの たえてしなくば なかなかに 人をも身をも 恨みざらまし(中納言朝忠)

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百人一首の第44番は、作者 中納言朝忠(ちゅうなごんあさただ)が詠んだ、恋の未練や苦しみを繊細に表現した歌として知られています。

百人一首『44番』の和歌とは

原文

あふことの たえてしなくば なかなかに 人をも身をも 恨みざらまし

読み方・決まり字

あうことの たえてしなくば なかなかに ひとをもみをも うらみざらまし

「あうこ(おおこ)」(三字決まり)

現代語訳・意味

もし、あなたと会うことが全くなければ、相手の冷たい態度や自分のつらい気持ちを恨むこともなかっただろうに。

背景

百人一首『44番』の和歌は、平安時代中期の貴族・藤原朝忠が詠んだ恋の歌です。この歌は「天徳内裏歌合」という宮中の和歌大会で披露されました。

当時の貴族社会では、恋愛は日常生活の中で重要なテーマでした。歌の背景には、相手への想いが報われない苦しさと、それでも諦めきれない複雑な感情があります。もし最初から逢えなければ、相手の冷たさや自分の辛さを恨むことはなかっただろうという切ない心情が込められています。

この歌から、当時の恋愛観や貴族の繊細な心情が感じ取れます。

語句解説

逢ふことの男女が出会うことや、恋人との逢瀬を意味しています。この場合は、作者自身の恋愛関係を指しています。
たえてしなくば「たえて」は「まったく」という意味で、強い否定を表します。「しなくば」は「もし~ないならば」という反実仮想の構文です。
なかなかに「かえって」や「むしろ」という意味です。物事が中途半端であることが、むしろ悪い結果を招くという感情を表現しています。
人をも身をも「人」は恋の相手、「身」は自分自身を指します。「も」は並列の意味で、相手も自分もどちらも、という意味です。
恨みざらまし「恨むことはしなかっただろうに」という意味です。「ざら」は打消の助動詞「ず」の未然形で、「まし」は反実仮想を表す助動詞です。現実とは違う状況を仮定し、その場合の結果を想像している表現です。

作者|中納言朝忠

作者名中納言朝忠(ちゅうなごんあさただ)
本名藤原朝忠(ふじわらのあさただ)
生没年910年(延喜10年)~966年(康保3年)
家柄平安時代中期の貴族で、父は三条右大臣藤原定方の五男として生まれた。藤原北家の有力な家柄に属していた。
役職従三位中納言まで昇進した。
業績三十六歌仙の一人に数えられるほどの優れた歌人である。雅楽の笙の名手としてもその才能を広く知られていた。
歌の特徴恋愛をテーマにした歌が多く、恋の苦しみやもどかしさを繊細に表現することが特徴です。相手との微妙な距離感や、未練を抱きながらも諦めようとする心情を巧みに表現しています。

出典|拾遺和歌集

出典拾遺和歌集(しゅういわかしゅう)
成立時期1005年頃(平安時代中期)
編纂者花山院(かざんいん)
位置づけ八代集の3番目の勅撰和歌集
収録歌数1,351首
歌の特徴優雅でしめやかな歌風が特徴で、贈答歌が減少し、旋頭歌や長歌が採用されています。古今集の伝統を重んじつつも、伝統の枠を超えた表現が多く見られます。
収録巻「恋一」678番

語呂合わせ

あうことの たえてしなくば なかなかに ひとをもをも うらざらまし

おおこ みみ(大きい耳)

百人一首『44番』の和歌の豆知識

「人をも身をも恨みざらまし」の意味は?

「人をも身をも恨みざらまし」は、「相手の冷たい態度や、自分自身の辛い運命を恨むことはなかっただろうに」という意味です。

この歌では、もし最初から相手と逢うことがなければ、こんなにも相手の素っ気なさや、自分の心の弱さに苦しむことはなかっただろうと詠んでいます。

「人」は恋の相手を、「身」は自分自身を指し、両方への苦しみが表現されています。好きだからこそ冷たい態度に心が痛み、そんな自分を情けなく思ってしまう。この歌には、叶わぬ恋に対する切なさと諦めきれない気持ちが込められています。平安時代の貴族たちが抱く恋愛の葛藤や繊細な心情が、この一節に凝縮されています。

百人一首に詠まれた恋の恨みの歌

百人一首『44番』は「恨みの歌」ともいえる作品です。

この歌では、恋人との関係が上手くいかず、心の中に芽生えた恨みや後悔が強く表現されています。会えないことの辛さ、そして時折見せられる優しさに心が揺れ動く様子が、この歌の中心にあります。

「逢うことがなければ、こんなに苦しまなくても済んだのに」という感情は、現代の恋愛でも多くの人が共感できるポイントです。

笙の名手としての中納言朝忠

中納言朝忠は、和歌だけでなく「笙(しょう)」という雅楽器の名手としても知られていました。

笙は、17本の竹管が円形に並んだ美しい音色の楽器で、平安時代の貴族文化に欠かせないものでした。彼はこの楽器の演奏においても一流で、音楽の才能も高く評価されていました。

和歌とともに雅楽も嗜んでいた朝忠は、まさに文化人としての一面を持ち、貴族としての教養を感じさせる人物です。

まとめ|百人一首『44番』のポイント

この記事のおさらい
  • 原文:あふことの たえてしなくば なかなかに 人をも身をも 恨みざらまし
  • 読み方:あうことの たえてしなくば なかなかに ひとをもみをも うらみざらまし
  • 決まり字:あうこ(おおこ)
  • 現代語訳:もし、あなたと会うことが全くなければ、相手の冷たい態度や自分のつらい気持ちを恨むこともなかっただろうに
  • 背景:平安時代中期の貴族・藤原朝忠が詠んだ恋の歌で、「天徳内裏歌合」という宮中の和歌大会で披露された
  • 語句解説①:逢ふことの‐男女の出会いや恋人との逢瀬を指す
  • 語句解説②:たえてしなくば‐「たえて」は「まったく」、「しなくば」は「もし~ないならば」の意味
  • 語句解説③:なかなかに‐「かえって」「むしろ」といった意味で、中途半端な状況が悪い結果を生むことを表す
  • 語句解説④:人をも身をも‐「人」は恋の相手、「身」は自分を指し、両方への感情を表現している
  • 語句解説⑤:恨みざらまし‐「恨むことはしなかっただろうに」という意味で、反実仮想の表現
  • 作者:中納言朝忠(藤原朝忠)
  • 作者の業績:三十六歌仙の一人で、恋愛をテーマにした和歌を多く詠んだ。また、笙の名手としても知られた
  • 出典:拾遺和歌集
  • 出典の収録巻:恋一・678番
  • 語呂合わせ:おおこ みみ(大きい耳)
  • 豆知識①:「人をも身をも恨みざらまし」は、相手の冷たさや自分の運命を恨むことはなかっただろうに、という意味
  • 豆知識②:この歌は「恨みの歌」ともいわれ、叶わぬ恋のもどかしさや未練を表現している
  • 豆知識③:作者の藤原朝忠は、和歌だけでなく雅楽の笙の演奏にも優れた才能を持っていた
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