百人一首の第53番は、平安時代中期の女性歌人、右大将道綱母が詠んだ、孤独な心情を描いた切ない恋の歌として知られています。
この記事では、百人一首『53番』の原文、読み方、決まり字、現代語訳と意味について説明します。
さらに、作者、出典や語呂合わせについても詳しく解説していきます。
百人一首『53番』の和歌とは
原文
なげきつつ ひとりぬる夜の あくるまは いかに久しき ものとかはしる
読み方・決まり字
なげきつつ ひとりぬるよの あくるまは いかにひさしき ものとかはしる
「なげき」(三字決まり)
現代語訳・意味
あなたが来てくれないことを嘆きながら、一人で夜を過ごしている私にとって、夜が明けるまでの時間がどれだけ長いものか、あなたはご存じでしょうか。いいえ、きっとご存じないでしょう。
語句解説
嘆きつつ | 「つつ」は動作や作用の継続を示す接続助詞で、「~しながら」という意味。何度も嘆いてため息をつく様子を表します。 |
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ひとり寝る夜 | 「寝(ぬ)る」は動詞「寝(ぬ)」の連体形。平安時代では、男性が女性の家に通う通い婚が一般的だったため、「ひとり寝る夜」は夫の来訪がなく孤独に過ごす夜を指します。 |
明くる間は | 「間」は時間の意。ここでは「夜が明けるまでの時間」という意味です。「は」は強調を示す係助詞で、夜の長さを強調しています。 |
いかに | 程度を尋ねる疑問の副詞で、「どれほど」「どんなにか」という意味。深い感情を含んだ問いかけの形になっています。 |
久しきもの | 「久しき」は「長い」という意味で、時間が非常に長く感じられることを示しています。 |
とかは知る | 「とか」は引用を表す格助詞。「かは」は反語を表す係助詞で、「知る」と係り結びの関係になっており、「知っているでしょうか?いや、知っていないでしょう」という意味です。 |
作者|右大将道綱母
作者名 | 右大将道綱母(うだいしょうみちつなのはは) |
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本名 | 不詳 |
生没年 | 936年(承平6年)頃 ~ 995年(長徳元年) |
家柄 | 中流貴族の藤原倫寧の娘。文才のある一族で、弟には有名な歌人・藤原長能、姪には『更級日記』の作者・菅原孝標女がいる。 |
役職 | 特定の役職には就いていないが、『蜻蛉日記』の作者として著名。 |
業績 | 『蜻蛉日記』を執筆し、自身の結婚生活や苦悩を詳細に記録した。これにより、平安時代中期の女性の生活や心情が広く知られるようになった。 |
歌の特徴 | 繊細で内省的。女性の孤独や恋愛に対する複雑な感情を鮮明に描写し、深い感情を込めた叙情的な和歌を詠むことが多い。 |
出典|拾遺和歌集
出典 | 拾遺和歌集(しゅういわかしゅう) |
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成立時期 | 1005年頃(平安時代中期) |
編纂者 | 花山院(かざんいん) |
位置づけ | 八代集の3番目の勅撰和歌集 |
収録歌数 | 1,351首 |
歌の特徴 | 優雅でしめやかな歌風が特徴で、贈答歌が減少し、旋頭歌や長歌が採用されています。古今集の伝統を重んじつつも、伝統の枠を超えた表現が多く見られます。 |
収録巻 | 「恋四」912番 |
語呂合わせ
なげきつつ ひとりぬるよの あくるまは いかにひさしき ものとかはしる
「なげき いか(嘆きイカ)」
百人一首『53番』の和歌の豆知識
「ひとり寝る夜」とはどういう意味ですか?
当時、結婚は男性が女性の家を訪問する形式が一般的で、夫が来ない夜は女性が一人で過ごさなければなりませんでした。このため、孤独や寂しさが強く感じられる時間でした。特に百人一首『53番』の歌においては、作者である右大将道綱母が、夫の来訪を待ちながらも訪れてこない夜の長さを嘆き、心の苦しさを表現しています。この表現は、現代でも孤独を象徴するものとして理解されます。
「嘆きつつひとり寝る夜」は修辞法を使っている
「つつ」という接続助詞が動作の継続を示し、「嘆く」という行為が繰り返される様子を強調しています。また、「ひとり寝る夜」はそのまま孤独と寂しさを描写し、夜の長さや心の孤独感を際立たせています。このように、感情を強く訴える修辞法により、読者は作者の悲しみや心の痛みを共感的に感じ取ることができます。
蜻蛉日記に込めた思い
この日記には、彼女が結婚生活の中で感じた孤独や失望が率直に書かれています。百人一首『53番』の歌も、この日記に関連するエピソードとして収められ、夫に対する心の訴えが伺えます。日記は単なる日常の記録ではなく、女性としての苦しみや不満、そしてわずかな喜びが織り込まれた作品です。
まとめ|百人一首『53番』のポイント
- 百人一首『53番』は右大将道綱母の作品である
- 原文は「なげきつつ ひとりぬる夜の あくるまは いかに久しき ものとかはしる」
- 読み方は「なげきつつ ひとりぬるよの あくるまは いかにひさしき ものとかはしる」
- 決まり字は「なげき」で三字決まりである
- 現代語訳は孤独な夜を過ごす女性の嘆きを描いている
- 「ひとり寝る夜」とは夫が来訪しない孤独な夜を指す
- 「つつ」は動作の継続を示し「~しながら」の意味を持つ
- 「いかに」は感情を込めた問いかけで「どれほど」の意味を持つ
- 出典は『拾遺和歌集』である
- 『拾遺和歌集』は平安時代中期に成立した勅撰和歌集である
- 編纂者は花山院である
- 収録歌数は1,351首に及ぶ
- 作者は藤原倫寧の娘であり、本名は不詳
- 業績には『蜻蛉日記』の執筆がある
- 『蜻蛉日記』は結婚生活の苦悩を記録した日記である
- 「嘆きつつひとり寝る夜」は修辞法として反復が用いられている
- 作者は中流貴族の出身で、弟や姪も文才に優れていた
- この歌は恋愛における寂しさを鮮明に描いている
- 決まり字は覚えやすく「なげき いか(嘆きイカ)」と語呂合わせされる