百人一首『94番』み吉野の 山の秋風 さ夜ふけて ふるさと寒く 衣うつなり(参議雅経)

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百人一首の第94番は、作者 参議雅経(さんぎまさつね)が詠んだ、秋の静寂と古都の物悲しさを描いた歌として知られています。

百人一首『94番』の和歌とは

原文

み吉野の 山の秋風 さ夜ふけて ふるさと寒く 衣うつなり

読み方・決まり字

みよしのの やまのあきかぜ さよふけて ふるさとさむく ころもうつなり

みよ」(二字決まり)

現代語訳・意味

奈良の吉野山には秋風が吹きわたり、夜がふけるにつれて寒さが増します。かつて都があった吉野の里では、衣を砧(きぬた)で打つ音が静かな夜に響き、物悲しい気持ちにさせます。

背景

百人一首『94番』の歌は、平安時代末期から鎌倉時代初期にかけての歌人、参議雅経(飛鳥井雅経)によって詠まれました。この歌の背景には、吉野山という場所が持つ特別な歴史と風情があります。

吉野山は、奈良県に位置し、古くは都の離宮が置かれた地でした。しかし、時代が進むにつれて都が移り、吉野は静かな田舎となりました。作者はその歴史の変遷を知りつつ、かつての繁栄と今の寂しさを対比的に詠み込んでいます。

また、秋という季節特有の物悲しさが、この歌をより深いものにしています。冷たい山風や夜の静寂、さらに砧(きぬた)の音が、昔の吉野の華やかさを懐かしく思い出させる効果を持っています。この歌は、時代の移り変わりと季節感を見事に表現した一首といえるでしょう。

語句解説

み吉野の「み」は美称の接頭語で、敬意や美しさを表します。「吉野」は現在の奈良県吉野町で、桜や自然の美しい地域として知られています。
山の秋風山から吹いてくる秋の風を指します。秋の冷たさや物悲しさを象徴する言葉です。
さ夜ふけて「さ」は語感を整えるための接頭語です。「夜ふけて」は夜が深まる様子を表しています。
ふるさと寒く「ふるさと」は「古都」や「かつて都があった場所」を意味します。「寒く」はク活用の形容詞「寒しの連用形で、「ふるさと」の状態を説明しています。
衣うつなり「衣うつ」は衣類を砧(きぬた)で打つ作業を指します。「なり」は伝聞や推定を表す助動詞で、「衣を打つ音が聞こえてくる」という意味になります。

作者|参議雅経

作者名参議雅経(さんぎまさつね)
本名藤原雅経(ふじわらのまさつね)
生没年1170年(嘉応2年)~1221年(承久3年)
家柄藤原北家の出身で、父は藤原頼経(難波頼経)。平安時代末期から鎌倉時代前期の公卿。
役職従三位・参議(朝廷の高官)。
業績『新古今和歌集』の撰者の一人。蹴鞠(けまり)の名手であり、飛鳥井流蹴鞠の祖。
歌の特徴本歌取りを多用し、過去の名歌を踏まえた作品が多い。叙情的で、自然描写や感情表現に優れる。

出典|新古今和歌集

出典新古今和歌集(しんこきんわかしゅう)
成立時期1205年(元久2年)
編纂者藤原定家(ふじわらのていか)藤原家隆(ふじわらのいえたか)、源通具(みなもとのみちとも)などの歌人
位置づけ八代集の8番目の勅撰和歌集
収録歌数約1,980首
歌の特徴情調的で象徴的な表現が特徴で、余情や幽玄を重んじた繊細な歌風を持つ。初句切れや三句切れ、体言止めなどの技巧を多用し、貴族の失望感や虚無感を反映。
収録巻「秋」483番

語呂合わせ

みよしのの やまのあきかぜ さよふけて ふるさとさむく ころもうつなり

みよ ふるさと(見よ 故郷)

百人一首『94番』の和歌の豆知識

「砧(きぬた)の音」とは?

百人一首『94番』で登場する「衣を打つ音」とは、砧(きぬた)という道具を使った作業音を指します。

砧は木製の台と棒からなる道具で、布を叩いて柔らかくしたり光沢を出したりするために使われました。この作業は主に秋から冬にかけて行われ、当時の生活の一部として馴染み深いものでした。

秋の静寂の中で響く「トントン」という音は、物悲しさを感じさせる風景の象徴でした。この音が歌に込められたことで、静かな夜と冷たい山風の情景が一層鮮明に伝わってきます。

本歌取りの技巧が光る一首

この歌は、「本歌取り」という技巧が用いられています。

本歌取りとは、過去の名歌の一部を引用しつつ、新しい意味や情景を加えて詠む技法です。この歌では、坂上是則(さかのうえのこれのり)の「み吉野の 山の白雪 つもるらし ふるさと寒く なりまさるなり」が元となっています。

坂上是則の歌が冬をテーマにしているのに対し、参議雅経は季節を秋に変え、砧の音という情景を加えました。このような工夫によって、歌は新たな趣を持つ作品となり、より深い感情が込められています。

吉野山の歴史と特別な意味

歌の舞台である吉野山は、かつて離宮が置かれるなど、歴史的にも重要な場所でした。

しかし時代が進むにつれ、都が移転し、吉野は静かな田舎へと変わりました。百人一首『94番』では、こうした吉野の歴史の移り変わりが詠まれています。

また、吉野山は桜の名所としても知られ、和歌の世界では特別な場所として数多くの作品に登場します。この歌の作者も、その美しい自然と歴史の重みを深く感じながら、この一首を詠んだことでしょう。

まとめ|百人一首『94番』のポイント

この記事のおさらい
  • 原文:み吉野の 山の秋風 さ夜ふけて ふるさと寒く 衣うつなり
  • 読み方:みよしのの やまのあきかぜ さよふけて ふるさとさむく ころもうつなり
  • 決まり字:みよ(二字決まり)
  • 現代語訳:奈良の吉野山に秋風が吹き、夜が更けるにつれて寒さが増し、衣を打つ音が響いてくる情景
  • 背景:吉野山の歴史的な変遷と秋の物悲しさを詠んだ歌
  • 語句解説①:み吉野の‐「み」は美称の接頭語、「吉野」は奈良県吉野町を指す
  • 語句解説②:山の秋風‐山から吹く冷たい秋の風を表す
  • 語句解説③:さ夜ふけて‐「夜が更ける」様子を意味する
  • 語句解説④:ふるさと寒く‐「古都が寒々しい」様子を表す
  • 語句解説⑤:衣うつなり‐砧で衣を叩く音が聞こえるという意味
  • 作者:参議雅経(飛鳥井雅経)
  • 作者の業績:『新古今和歌集』の撰者、蹴鞠の名手で飛鳥井流蹴鞠の祖
  • 出典:新古今和歌集
  • 出典の収録巻:秋・483番
  • 語呂合わせ:みよ ふるさと(見よ 故郷)
  • 豆知識①:砧の音‐衣を叩く「トントン」という音が秋の物悲しさを象徴
  • 豆知識②:本歌取り‐坂上是則の歌を元に新たな情景を加えた技巧的な一首
  • 豆知識③:吉野山‐かつての離宮があった歴史的場所で和歌の題材として多用された
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